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栗(く り)
 石見銀山は島根県の中央部に位置し最盛期には20万人もの人々が居住したといわれています。銀山の博物館も整備され往事の様子がうかがうことができます。その展示品の中に鉱石をより分ける水簸作業に使う道具、「揺り盆」と呼ばれる栗の大きな盆がありました。いつも水に浸かっているような作業ですからその用具は水や腐敗に強いものでなくてはなりません。その揺り盆は幾年月に耐えて風格すら備えていました。 
 
 栗は木材を腐敗に導く腐食菌の増殖を含まれる多量のタンニンの働きで押さえてしまいます。鉱石を水の中でより分ける際に使う揺り盆がなにより栗でなければならない理由です。日本人が長い間に蓄積してきた木材の性質を熟知し活用する知恵がこんなところにもあります。栗はその甘い実を食用にするばかりでなく漆という高価な塗装を得られない庶民の日常の生活用具の素材に欠かせないものでした。今でも吉野で伝統的な杓子を神業の如くに作られる新子さんが使われる材料も必ず栗です。
昔から家の土台にあたる部分や屋根の材料に栗はあてられてきました。水に濡れやすい場所だからです。近代になると鉄道の枕木や電柱にも栗は使われましたが、今ではコンクリートにすっかりとって替わられました。
 私どもで栗のスプーンや茶托、箸さらにテーブルまで作るようになったのは銀山で揺り盆と出会ったことがきっかけでした。そのころ4、5年前に製材した栗の板を引きずり出して削ってみると雨ざらしになっていたにもかかわらず少しも痛んでいなかったことも意を強くしました。
 栗は表座敷にはあまりでかけないけれど台所で骨惜しみなく働き家を支える昔の「おふくろさん」のような地味な素材かもしれません。家を支えるのは土台も同様です。雨に耐える屋根や毎日毎日味噌汁を掬う杓子を見れば一目瞭然、大変丈夫です。そんな栗がもし今の暮らしに生かせたらと願いつつ栗のクラフトをご提案させていただきます。栗の質感は土ものの器としっくりきて相性がいいようです。タンニンを発色させ、拭漆で仕上げると穏やかで落ちついた色合いになりました。是非、その味わいをお楽しみください